あったので、朱もそれに応じてみると第一等の成績を得、秋の本試験には経元《けいげん》に及第した。朱の同窓は朱の郷試に応じたことを笑っていたが、試験の成績を見るに及んで、皆で顔を見合わして驚いた。そして朱にその理由を聞いてはじめて不思議のあったことを知ったので、朱に紹介してもらって陸と交際したいと頼んできた。その結果陸が承諾してきたので、皆で大いに酒席を設けて待っていた。初更の比になって陸が来た。赤い髯を動かし、目を電《いなずま》のようにきらきらと光らすので、皆が恐れて魂のぬけた人のようになり、歯の根もあわずに顫《ふる》えていたが、座にたえられないので一人帰り二人帰りしていなくなってしまった。朱はそこで陸を伴《つ》れて自分の家へ帰って飲み、既に酔ってから陸に言った。
「君に腸を易えてもらって非常な恩を受けているが、も一つ頼みたいことがある、聞いてもらえるかね」
「どんなことだね」
「君は腸をかえることができるから、顔をかえることもできるだろう、僕の妻は、少年の時から夫婦になっているもので、体はそんなに悪くはないが、いかにも顔が拙《まず》いからね」
 陸は笑って言った。
「いいとも、すこし待
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