に来ております」
「よし、では、この鉢盂《はち》をあげるから、これを知らさずに持って往って、いきなりその女の頭へかぶせて、力一ぱいに押しつけるが宜い、どんなことがあっても、手をゆるめてはならない、わしは、今、後から往く」
 許宣は禅師から鉢盂をもらって李幕事の家へ帰った。李幕事の家の一室では白娘子が何か言って罵っていた。許宣はしおしおとした容《さま》をしてその室へ往った。白娘子は許宣を見るとしとやかな女になって、許宣に何か言いかけようとした。隙を見て許宣は袖の中に隠していた鉢盂を出して、不意に女の頭に冠せて力まかせに押しつけた。女は叫んでそれを除けようとしたが、除けられなかった。女の形はだんだんに小さくなっていった。そして、許宣がなおも力を入れて押しつけていると、女の形はとうとうなくなって鉢盂ばかりとなった。
「苦しい、苦しい、どうか今まで夫婦となっていたよしみに、すこし除けてください、私は死にそうだ」
 鉢盂の中からそうした声が聞えてきた。と、その時李幕事が来て言った。
「和尚さんが、怪しい者を捉りにきたと言って見えたよ」
「それは法海禅師です、早くお通ししてください」
 李幕事は急
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