白娘子の方を見た。
「さあ、どうかお入りください」
 白娘子は体を動かそうとした。許宣がその前に立ち塞がった。
「こいつを、家の中へ入れてはだめです、こいつが、私を苦しめた妖怪《ばけもの》です」
 白娘子は小婢の方を見て微笑した。王主人は女のそうした綺麗なやさしい顔を見て疑わなかった。
「こんな妖怪があるものかね、まあいい、後で話をすれば判る、さあお入りなさい」
 許宣は王主人がそういうものを、自分独りで邪魔をするわけにもいかないので、自分で前に入って往った。白娘子は小婢を伴れて王主人に随いて内へ入った。家の内では王主人の媽媽《にょうぼう》が入ってくる白娘子のしとやかな女ぶりに眼を注けていた。白娘子は媽媽におっとりした挨拶をした後で、傍に怒った顔をして立っている許宣を見た。
「私は、あなたに、この身を許しているじゃありませんか、どうして、あなたを悪いようにいたしましょう、あの銀は、今考えてみますと、私の先の夫です、私はすこしも知らないものですから、あなたにさしあげてあんなことになりました、私はそれを言いたくてあがりました」
 許宣にはまだ一つ不思議に思われることがあった。
「臨安府の捕
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