なった。
「おかしいね、お前はどっかのお婆さんと婚礼するのじゃないかね、まあいいわ、私がこれを預ってて、兄さんが帰ってきたなら、話をしよう」
許宣はそれから姐の室を出てきた。姐はその夜李幕事の帰ってくるのを待っていて、許宣の置いて往った金を見せた。
「あれは、何人かと約束しているのですよ、親元になって、儀式さえあげてやればいいのですよ、早く婚礼をさそうじゃありませんか」
「じゃ、この金は、女の方からもらったのだね」
李幕事はそう言って銀を手に取りあげた。そして、その銀の表に眼を落した。
「た、たいへんだ」
李幕事は眼を一ぱいに瞠って驚いた。
「何を、そんなにびっくりなさるのです」
細君には合点がいかなかった。
「この金は、邵大尉《しょうたいい》の庫の金だ、盗まれた金なのだ、庫の内へ入れてあった金が、五十錠なくなっているのだ、封印はそのままになってて、内の金がなくなっているのだ、臨安府《りんあんふ》では五十両の賞をかけて、その盗人を探索しているところなのだ、宣には気の毒だがしかたがない、我家《うち》から訴えて出よう、これが他から知れようものなら、一家の者は首がない、こいつは豪《え
前へ
次へ
全50ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング