なりました」
許宣は白娘子に別れ、小婢に門口まで見送られて帰ってきたが、心はやはり白娘子の傍にいるようで、自分で自分を意識することができなかった。そして、翌日舗に出ていても仕事をする気になれないので、また口実を設けて外へ出て、そのまま双茶坊の白娘子の家へ往った。
許宣の往く時間を知って待ちかねていたかのように小婢が出てきた。
「ようこそ、さあどうかお入りくださいまし、今、奥様とお噂いたしておったところでございます」
「今日は傘だけいただいて帰ります。傘をください、ここで失礼します」
許宣はそう言ったものの早く帰りたくはなかった。彼は白娘子が出てきてくれればいいと思っていた。
「まあ、そうおっしゃらずに、ちょっとお入りくださいまし」
小婢はそう言ってから内へ入って往った。許宣は小婢が白娘子を呼びに往ったことを知ったので嬉しかった。彼は白娘子の声が聞えはしないかと思って耳を傾けた。
人の気配がして小婢が引返してきた。小婢の後から白娘子の顔が見えた。
「さあ、どうぞ、お入りくださいまし、もしかすると、今日いらしてくださるかも判らないと思って、朝からお待ちしておりました」
「今日はも
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