に置いた虎鬚菖蒲《はしょうぶ》の鉢がまず女の室らしい感じを与えた。そして、両側の柱には四幅の絵を挂《か》けて、その中間になった処にも何かの神の像を画いた物を挂けてあった。神像の下には香几《こうづくえ》があって、それには古銅の香炉と花瓶を乗せてあった。
 白娘子が濃艶な顔をして出てきた。許宣はなんだかもう路傍の人でないような気がしていたが、その一方では非常にきまりがわるかった。
「よくいらっしゃいました、昨日はまたいろいろ御厄介になりまして、ありがとうございました」
「いや、どういたしまして、今日はちょっとそこまでまいりましたから、お住居はどのあたりだろうと思って、何人かに訊いてみようと思ってるところへ、ちょうど婢《じょちゅう》さんが見えましたから、ちょっとお伺いいたしました」
 二人が卓に向きあって腰をかけたところで、小婢が茶を持ってきた。許宣はその茶を飲みながらうっとりした気もちになって女の詞を聞いていた。
「では、これで……」
 許宣は動きたくはなかったが、いつまでも茶に坐っているわけにゆかなかった。腰をあげたところで、小婢が酒と菜蔵果品《さかな》を持ってきた。
「何もありませんが
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