いで出て往ったが、やがて法海禅師を伴れて入ってきた。
「妖蛇は、この下に伏せてあります」
禅師はそこで口の中で何か唱えていたが、それが終ると鉢盂を開けた。七八寸ぐらいある傀儡《にんぎょう》のようなものがぐったりとなっていた。禅師はその傀儡に向って言った。
「その方は、何故に人に纏わるのじゃ」
「私は風雨の時に、西湖に来た※[#「虫+(くさかんむり/天/廾)、149−14]蛇《うわばみ》です、青魚《せいぎょ》といっしょになっておりましたところで、許宣を見て心が動いたので、こんなことになりました。それでも、かつて物の命を傷《そこの》うたことがございませんから、どうか許してください」
「淫罪がもっとも大きいからいけない、それでも千年間修練するなら命は助かる、とにかく本の形を現わすが宜い」
それとともに傀儡は白い蛇となって、その傍に青い魚の姿も見えてきた。
禅師はその蛇と魚を鉢盂に入れて、それに褊衫《けさ》を被せて封をし、それを雷峯寺の前へ持って往って埋め、その上に一つの塔をこしらえさして、白蛇と青魚を世に出られないようにした。禅師はそれに四句の偈を留めた。
[#ここから2字下げ]
雷峯塔倒れ、西湖水乾れ、江潮起たず、白蛇世に出ず
[#ここで字下げ終わり]
許宣は法海禅師の弟子となって雷峯塔の下におり、その塔を七層の大塔にしたが、後、業を積んで坐化《ざけ》してしまった。朋輩の僧達は龕《がん》を買ってその骨を焼き、骨塔を雷峯の下に造ったのであった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
※「覚えているが宜い」は、底本では「覚えているが宣い」ですが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年8月3日作成
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