したので、許宣は王主人の許へ預けられることになった。
許宣は王主人の許に世話になってから半年ばかりになった。彼はそこで毎日|無聊《ぶりょう》に苦しめられていた。と、ある日、王主人が室へ入ってきた。
「轎に乗った女がきて、お前さんを尋ねている、了鬟《じょちゅう》も一人|伴《つ》れている」
許宣は心当りはなかったが、好奇《ものずき》に門口へ出てみた。門口にはかの白娘子と青い上衣を着た小婢が立っていた。許宣は驚きと怒りがいっしょになって出た。
「この盗人《どろぼう》、俺をこんな目に逢わしておいて、またここへ何しに来たのだ」
「私は、決して、そんな悪いものではありません、それをあなたに分弁《いいわけ》したくてまいりました」
白娘子は心もち綺麗な首を傾げてさも困ったというようにした。
「いくら俺をだまそうとしたって、もうその手に乗るものかい、この妖怪《ばけもの》」
許宣の後から出てきた王主人は、許宣に門前でやかましく言われては、隣家へつけてもていさいがわるいので、その傍へ往って言った。
「遠くからいらした方らしいじゃないか、まあ内へ入れて、話をしたらどうだね」
王主人はそう言ってから白娘子の方を見た。
「さあ、どうかお入りください」
白娘子は体を動かそうとした。許宣がその前に立ち塞がった。
「こいつを、家の中へ入れてはだめです、こいつが、私を苦しめた妖怪《ばけもの》です」
白娘子は小婢の方を見て微笑した。王主人は女のそうした綺麗なやさしい顔を見て疑わなかった。
「こんな妖怪があるものかね、まあいい、後で話をすれば判る、さあお入りなさい」
許宣は王主人がそういうものを、自分独りで邪魔をするわけにもいかないので、自分で前に入って往った。白娘子は小婢を伴れて王主人に随いて内へ入った。家の内では王主人の媽媽《にょうぼう》が入ってくる白娘子のしとやかな女ぶりに眼を注けていた。白娘子は媽媽におっとりした挨拶をした後で、傍に怒った顔をして立っている許宣を見た。
「私は、あなたに、この身を許しているじゃありませんか、どうして、あなたを悪いようにいたしましょう、あの銀は、今考えてみますと、私の先の夫です、私はすこしも知らないものですから、あなたにさしあげてあんなことになりました、私はそれを言いたくてあがりました」
許宣にはまだ一つ不思議に思われることがあった。
「臨安府の捕
前へ
次へ
全25ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング