「馬鹿」
北側に坐っていた男はまた少年の方を見て怒鳴った。
「人から、一摘みのものをもらって食っても恥だのに、酒や肴を御馳走になっている、怒ったところでおっつかない、どうかしてやったらいいだろう」
「駄目だ、もう帳面にのっている、変えることはできない」
「どう書いてある、ちょっと見せてくれ」
南側の男が手を出すと、北側の男が懐から帳面を出して渡した。南側の男はその帳面を繰った。趙顔の名が出て寿《じゅ》十九歳と書いてあるのが見えた。
「わけはない、これはすぐになおる」
南側の男は筆を執って十と九との間に返り点をつけて、それを少年の方へ見せた。
「お前の齢を九十にしてやる」
少年は喜んでお辞儀をして帰ってきた。家では旅人が少年の帰ってくるのを待っていた。
「そうか、それで大丈夫だ、あの南側にいたのが、南斗星で、北側にいたのが北斗星だ、南斗星は生をつかさどり、北斗星は死をつかさどるのだ」
少年の父が礼をしようとしたが旅人は受けなかった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年9月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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