為作は庭前《にわさき》の日陰に莚を敷いて其処で仕事をしていた。源吉は為作の傍にいたりいなかったりした。
 夕方になって為作が仕事をおいて、夕飯の準備《したく》をしていると源吉がひょいと庭前へ来て立った。
「お祖父さん」
 為作は囲炉裏の傍にいた。
「おう、源吉か、何処へ往っておった、お祖父さんは探しに往こうと思いよったぞ」
「お諏訪様へ往ってたよ、お祖父さん、今日はお諏訪様が出て来たよ」
「なに、お諏訪様が」
「そうよ、おいらが、お諏訪様の前へ往って、お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょうっていったら、出て来たのだよ」
 為作は何のたあいないことを云ってるだろうとは思ったが、源吉が如何にも真面目であるから、鍋の中を掻き混ぜていた手を止めた。
「出て来たって、何が出て来たのか」
「お諏訪様だよ」
「お諏訪様って、どんなお諏訪様じゃ」
「白い蛇よ」
「白い蛇が何処から出て来たよ」
「おいらが、お諏訪様、お諏訪様、いっしょに遊びましょうと云ってたら、神様の下の石の間から出て来たのだよ」
「それからどうした」
「おいらは、はじめはおっかなかったから、逃げちゃったが、追っかけて来ないの、横
前へ 次へ
全27ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング