て、
「何の用があって、ここへきたのか」
 と聞く。で、孫恪は、
「通りすがりに入ってきた者だ、尊門《そんもん》を汚して相済まん」
 と言って、みだりに門内に入った罪を謝した。
 そこで青衣の少女は裡へ入ったが、暫くすると最初の女が少女を伴《つ》れて出てきた。孫恪は少女に向って、
「この方は何人《たれ》か」
 と、聞くと少女は、
「袁《えん》長官の女《むすめ》で、御主人である」
 と言った。
「御主人はもう結婚なされておるか」
 と、孫恪がまた問うと、
「まだ結婚はなされていない」
と、少女が応《こた》えた。
 その後で、女は少女といっしょに引込んでいったが、すぐ少女に茶菓を持たしてよこして、
「旅人の心に欲する物があれば、何によらず望みをかなえてやる」
 と言わした。既に女に恋々の情を起している孫恪は、
「我は貧しい旅人で、学も才もないのに引代え、袁氏は家が富んでいるうえに、賢であるから、とても望まれない事であるが、もし結婚する事ができれば、大慶である」
 と言って、結婚を申込むと、女は承諾して少女を媒婆《なこうど》にして結婚の式をあげるとともに、孫恪はそのまま女の家に居座って入婿と
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