話をして、持って帰った古茶釜の蓋を出した。それはその日に見えなくなった己の家の茶釜の蓋であった。其処で飼猫を詮議して見ると、それも朝から何人《たれ》も見た者がなかった。備後を悩ました怪獣はたしかに彼の猫であろうと云っていると、五六日して備後の室の辺が非常に臭くなった。畳を剥いで床下を調べて見ると、彼の赤毛の飼猫が血に染まって死んでいた。その胸のあたりに弾痕があった。

 柴田家ではその猫に迷信を持って小さな祠を建てて祭った。
 柴田家は今の高知市本町四丁目の南側で、その邸跡に近年までその祠があったが、今は数多《たくさん》の人家が出来てその祠もどうなったのか消えてしまった。



底本:「日本の怪談」河出文庫、河出書房新社
   1985(昭和60)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年
入力:大野晋
校正:地田尚
2000年5月30日公開
青空文庫作成ファイル:
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