。
「この刀は外国から買ったものですが、人を殺すに未《いま》だ一度だって、縷《いとすじ》を濡《うる》おしたことがありません。私で三代これをつけております。首は千ばかり斬《き》っておりますが、まだ新らしく研《といし》にかけたようです。悪人を見ると鳴ってぬけます、どうも人を殺すのが近うございます。公子はどうか君子《くんし》と親しんで、小人《しょうじん》を遠ざけてください。そうしてくださるなら、ついすると免がれることができます。」
武は頷《うなず》いた。七郎はとうとう気持ちよく睡ることができなかった。彼は寝室の上で寝がえりばかりした。武がいった。
「災《わざわい》もさいわいも運命じゃないか。なぜそんなに心配するのです。」
七郎がいった。
「何もなければそれで佳《よ》いが。」
その寝台の下にいる三人のうちの一人は、林児《りんじ》という者で、それは老|弥子《びし》で主人の機嫌を取っていた。一人は年のころが十二、三で、武が給事に使っている者であった。他の一人は李応《りおう》という者で、ひどくねじけていていつも小さなことで武といい争っていたので、武はいつもそれを怒っていたが、その夜じっと考えて
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