と悴を呼ばないようにしてください。あまり有難く思いませんから。」
武はそれに敬礼したままで恥じて帰って来た。
半年ばかりしてのことであった。武の家の者が不意にいった。
「七郎は獲《と》った豹《ひょう》を争って、人をなぐり殺して、つかまえられました。」
武はひどく驚いてかけつけた。七郎はもう械《かせ》をはめられて監獄の中に入れられていた。七郎は武と顔を見合わして黙っていたが、ただ一言いった。
「どうか母のことを願います。」
武は心を痛めながらそこを出て、急いでたくさんの金を邑宰《むらやくにん》に送り、また百金を七郎の讎《かたき》の家へ送ったので、一ヵ月あまりで事がすんで七郎は釈《ゆる》されて帰って来た。母親は悲痛な顔をしていった。
「お前の体は武公子からもらったのだから、もうわしが惜むわけにいかない。ただわしは、公子が一生を終るまで、災難のないように祷《いの》っている。それがお前のさいわいなのだ。」
七郎は武の家へいって礼をいおうとした。母はいった。
「いくならばいってもいいが、公子に礼をいってはいけない。小さな恩は礼をいうが、大きな恩は、決して礼をいってはいけない。」
七郎
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