日本天変地異記
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縁取《ふちど》られ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)潮|凝《こ》りて

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「石+殷」、第3水準1−89−11]馭盧《おのころ》島
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     序記 国土成生の伝説

 大正十二年九月一日の大地震及び地震のために発したる大火災に遭遇して、吾吾日本人は世界の地震帯に縁取《ふちど》られ、その上火山系の上に眠っているわが国土の危険に想到して、今さらながら闇黒な未来に恐怖しているが、しかし考えてみれば、吾吾は小学校へ入った時から、わが国土が地震と火山とに終始していて、吾吾国民の上には遁《のが》れることのできない宿命的な危険が口を開いて待っているということを教えられていたように思われる。それは日本歴史の初歩として学ぶ国作りの伝説である。
 国作りの伝説は、「古事記」や「日本書紀」によって伝えられたもので、荒唐無稽な神話のように思われるが、わが国土が地震帯に縁取られ火山脈の上にいるということから考え合わすと、決して仮作的な伝説でないということが判る。「日本書紀」には、「伊弉諾尊《いざなぎのみこと》、伊弉冉尊《いざなみのみこと》、天の浮橋の上に立たして、共に計りて、底つ下に国や無からんとのり給ひて、廼《すなは》ち天《あめ》の瓊矛《ぬぼこ》を指しおろして、滄海を探ぐりしかば是《ここ》に獲き。その矛の鋒《さき》より滴《したた》る潮|凝《こ》りて一つの島と成れり。※[#「石+殷」、第3水準1−89−11]馭盧《おのころ》島と曰ふ。二神是に彼の島に降居まして、夫婦して洲国を産まんとす。便ち※[#「石+殷」、第3水準1−89−11]馭盧島をもて国の中の柱として、(略)産みます時になりて、先づ淡路洲を胞となす。(略)廼ち大日本豊秋津洲を生む。次に伊予の二名洲を生む。次に筑紫洲を生む。次に億岐《おき》洲と佐渡洲を双子に生む。(略)次に越洲を生む。次に大洲を生む。次に吉備子洲を生む。是に由りて大八洲国と曰ふ名は起れり。即ち対馬島、壱岐島及び処処の小島は皆潮沫の凝りて成れるなり。亦《また》水沫の凝りて成れりと曰ふ。次に海を生む。次に川を生む。次
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