て、裏の木炭《すみ》納屋で寝ております」
「なに、鍋で額を切った、よっぽど切ったかな」
「私は眠っておって知らざったが、母が起すから庭へおりてみると、額を切ったと云うて、衣《きもの》を破いて巻いておりました、我慢の強い人じゃから、見せえと云うても見せませんが、今日は飯も少ししか喫わんところを見ると、よっぽど切ってたろうと思いますが、見せんからこまります」
飛脚はいよいよ怪しいと思った。で、その老婆に逢って正体を見届けたいと思った。
「それはいかん、どうかして、傷を見てから、薬をつけんといかん、私《わたし》の印籠の中には、好い金創の薬があるから、つけてあげよう」
「そうですか、それはありがとうございます、どうかつけてやってつかあされませ」
「好いとも、それじゃ、これから二人で往って、私がつけてあげよう」
「それはどうもありがとうございます」
二人は伴れ立って家の右側から廻って裏口へ往った。其処に小さな木炭納屋があった。二人はその中へ入って往った。右側に莚を積み重ねた処があって、その上に背の高い老婆が此方へ足を投げだして寝ていた。
「お母《かあ》」と、鍛冶が云った。
「なんだ」と、老婆
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