提燈
田中貢太郎
八月の中頃で国へ帰る連中はとうに帰つてしまひ、懐の暖かな連中は海岸へ行つたり山へ行つたり、東京にゐるのは金のない奴か物臭か、そのあたりのバーの女給にお思召を付けてゐる奴か、それでなければ僕等のやうに酒ばかり飲み歩いてゐる奴ばかりなんでしたよ。
ある晩例によつて僕と、も一人の友人とで、本郷三丁目のバーで飲んでゐると二人の仲間がやつて来たんです。其所で四人の者が一緒になつて飲んでゐる内に、
「これから、何所かへ旅行しようぢやないか、」
と云ひだして、気まぐれな連中の揃ひだから、好からうと云ふことになつてたうとう其所から電車に乗つて東京駅へ行つたんです。
それで一つお話しておかないといけないことは、その時一緒に行つた山本と云ふ男が酒を飲んでゐる内に変なことを云ひだしたんです。山本は巣鴨にその時ゐたんですが、山本の下宿から電車へ行く所に、一方が寺の垣根になつて一方が長い長い塀になつた淋しい所があつて、其所に電燈が一つ寺の垣根に添うて点いてゐるさうですよ。なんでもその電燈は石なんかで壊れないやうに円い笠を針金の網で包んであるさうです。その電燈の傍に樫のやうな木の枝がお
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