時じゃ、私といっしょに鳳県《ほうけん》の南に往った時、一羽の雉の雌をつかまえて、宿へ着いて食おうと思ってると、お前が可哀そうだと言って、私にかくして逃がしてやったことがあるじゃないか、どうもその雉らしいぞ」
 杜陽は封生も何かであろうかと思った。
「じゃ、舅さん、その封生はなんでしょうね」
 舅はちょっと考えていたが頷いて言った。
「封生は僕を食った虎だよ、広異記《こういき》に封使君のことがあるじゃないか」

 杜陽は後に舅が没《な》くなったのでその事業を引受けてやったが、巨万の富を蓄積することができた。その後杜陽は桟道を通ったことがあったが、自分の墜ちた処へ往くと壑の底へ向って悵望《ちょうぼう》し、陳宝祠へは金を出して重修《しゅうぜん》した。



底本:「中国の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年8月8日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年11月30日発行
※「杜陽はその晩祠で寝て興安へ」の「杜陽は」は底本では「杜陽ら」でしたが、親本を参照して直しました。
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年8月3日作成
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