ともできなかった。
「出来た出来た、長竿恠《ちょうかんかい》」
皆が手を叩いて囃《はや》したてた。大異はどうすることもできなかった。大王は笑って言った。
「それが苦しければ代えてやってもいい、石を※[#「者/火」、第3水準1−87−52]《た》いて汁をこしらえるか、それとも一尺の体になるか」
大異は自分独りで立っていられないよりも、一尺の体の方がいいと思った。
「どうか、一尺の体にしてくださいますように」
「よし、一尺の体になりたいのか、皆、その人間を一尺の体にしてやれ」
大異の体はまた石床の上へ引擦り倒されて、縮めるように頭と足を捺されたり、また麪《めん》をこしらえるように按《も》まれたりした。骨が折れて肉が破れるような痛みに包まれていた大異は、いつの間にか自分の体が小さな蟹のようになっているのに気が注《つ》いた。
「彭※[#「虫+其」、267−15]怪《ほうきかい》」
「彭※[#「虫+其」、267−16]怪」
皆が手を拍って笑った。大異は苦痛に耐えられないで体を悶掻《もが》き悶掻きその辺を這った。
そこに年取った怪物がいた。怪物は掌を拍って笑って言った。
「お前さんは、平生《へいぜい》鬼怪を信じないのに、何故にこんな体になったのだ」
老鬼はその後で皆に向って言った。
「この人間は無礼な奴だが、これくらい辱しめたなら充分だろう、赦してやろうじゃないか」
老鬼はそこで両手を延べて大異をつかまえて起した。起すと同時に大異の体は故《もと》の体になった。大異は蘇生したように思った。
「どうか私を還してください」
皆が口々に言った。
「まだ返さないよ」
「ここまで連れてきた者を、ただは返さないよ」
「そうさ、人間に、我輩どもの有ることを知らす必要があるからな」
「皆で贈物があらあ」
大異を故の体にしてくれた老鬼が言った。
「贈物とはどんな物だ、どんな物を贈るのだ」
すると一つの怪物が言った。
「俺からは、撥雲《はつうん》の角を贈るのだ」
その怪物は二本の角を持ってきて、それを大異の額に当てた。と、角はそのまま生えたようにくっついてしまった。
「俺からは、哨風《しょうふう》の嘴《くちばし》を贈ろう」
他の怪物の一つは、鉄の嘴を持ってきて大異の脣《くちびる》に当てた。脣はまたそのまま鳥の喙《くちばし》のようになった。
「俺は朱華《しゅか》の髪を贈ろう」
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