も判らないぞ、と、彼は横眼を使いながら女の方に注意していた。壮《わか》いおどおどした女にも以合わず、荊棘の上も、萱の中もかまわず、ひらひらと歩いて来た。さては、と、彼は思った。
女は白いあどけない顔に微笑を見せながら寄って来た。若侍も微笑を見せて女の来るのを待っていた。
女の艶かしい顔が眼の前にあった。若侍は抜く手も見せず、腰の刀を抜いて斬りつけた。女は声を立てずに倒れたが、それはまぎれもない女の死骸であった。若侍は周章《あわ》てだした。狸ではなしに人であったら、恐れに眼が暗んで人と狸とまちがえたと云って世間から笑われる、もしそうであったら、とても生きてはいられない、と、彼は女の死骸を見つめていた。
三人|伴《づれ》の侍女《こしもと》らしい女が走って来た。若侍は当惑した。侍女らしい女は若侍の傍へ来た。
「もしや此処を、お姫様がお通りになりはしまいか」
と、一人が云った。若侍はさては己《じぶん》の殺したのはお姫様であったか、しまったことをしたと思って、全身の血が一時に氷結したように思った。
「や、これは、お姫様、何者がこんな姿に……」
と、一人の侍女は倒れるように死骸に執り縋っ
前へ
次へ
全14ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング