織を催促するたびに、三、四軒の家の財産がなくなった。
 ある村に成《せい》という者があった。子供に学芸を教える役であったが、長いこと教わりに来る者がなかった。その成は生れつきまわりくどいかざりけのない男であったが、ずるい邑宰の申したてによって里正の役にあてられた。成は困っていろいろと工夫して、その役から逃れようとしたが逃れることができなかった。それがために一年たらずですくなかった財産がなくなってしまった。ちょうどその時促織の催促があった。成はおしきって村の家家から金を取りたてもしなければ、それかといって自分で賠償金を出すこともできなかった。成は困りぬいて死のうとした。細君がいった。
「死んで何の益があります。自分でいって捜すがいいじゃありませんか。万一見つからないとも限りませんよ。」
 成はなるほどと思って、竹筒と糸の篭を持って朝早く出かけていって日が暮れるまで捜した。塀《へい》の崩《くず》れた処や草原へいって、石の下を探り、穴を掘りかえして、ありとあらゆることをしてやっと二、三疋の促織を捕えたが、皆貧弱なつまらない虫であるから条件にかなわなかった。邑宰は先例に従って厳重に期限を定めて
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