処《どこ》だね」
娘は武蔵《むさし》の奥の者で、両親に死に別れ、他に身寄もないので、わずかな知人をたよりに、江戸へ女中奉公の口を探しに往くと云った。
巳之吉は女のたよりない身の上を聞くと気のどくになった。そこで自分の家の前まで来ると、
「今晩はわっしの家へ泊って、明日ゆっくり往きなすったら」
娘はすぐ巳之吉の詞《ことば》に従った。娘はお雪《ゆき》と云う名であった。巳之吉の母親は、巳之吉からお雪の事を聞いてお雪を家へ置く事にした。
お雪が家にいるようになってから巳之吉はしごく元気になった。
やがて、巳之吉とお雪は夫婦になった。お雪は母親をひどく大事にした。
「ほんとに良い嫁が来てくれた、おまえたちは、いつまでも仲よく暮しておくれよ」
お雪は次つぎに十人の子供を産んだ。子供たちはみんな色が白くて、木樵の子のようでなかった。そのうえ、お雪は十人も子供を産んだにもかかわらず、容貌《ようぼう》は巳之吉の所へ来た時と同じようにわかわかしかった。
「お雪さんは、わしらとは違ってる、あれは人間じゃないよ」
村の女たちは陰口を利きあった。
幸福な月日がまた何年か経って、木枯の吹く冬が来た
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