てしまった。
 梁は故郷へ帰って陳の家へ探りに往った。陳はその時家で客と飲んでいた。梁はますます不思議であるから、そこで訊いた。
「君はこの間、洞庭にいたじゃないか、どうしてそんなに早く帰れたのだ」
 陳は言った。
「そんなことはないよ、僕は家にいたよ」
 梁はそこで、自分の見たままのことをはなした。それを聞いて一座の者は皆|駭《おどろ》いた。陳は笑って言った。
「そりゃ何かの間違いだよ、僕にどうして分身の術があるのだ」
 皆はそれを不思議に思ったが、その故を知ることはできなかった。陳は後に八十一歳で亡くなったが、葬式の時に棺が軽いので、開いて見ると空であった。



底本:「中国の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年8月4日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年発行
※疑問箇所の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年11月3日作成
青空文庫作成ファイル:
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