逢っていなかった。
ある日王氏の弟が姉をみまいに来たので、周は居間で酒盛をしていた。そこへ成が遊びに来たので家の者がとりついだ。周は喜んで迎えようとしたが、礼儀の正しい成は居間へ通るのは失礼にあたるからといって入らずに帰っていった。周は席を表座敷へ移して、成を追っかけていって伴《つ》れ還《かえ》り、やがて席についたところで、人が来て、
「今、別荘の下男が村役人につかまって、ひどく打たれております。」
といった。それは黄《こう》という吏部《りぶ》の官にいる者の牛飼《うしかい》が、牛を曳《ひ》いて周の家の田の中を通ったのがもとで、周の家の下男といいあらそいになり、それを走っていって主人に告げたので、主人の黄《こう》吏部は周の家の下男を捉《とら》えて村役人に送った。それがために周の家の下男が打たれて責められることになったのであった。周はその故《わけ》を聞いて大いに怒った。
「黄の牧猪奴《ぶたかいめ》、よくもそんなことをしやがった。おやじは俺のお祖父《じい》さんにつかえていたくせに。すこしよくなったと思って、人をばかにしやがる。」
周は忿《いかり》がむらむらとこみあげて来て、どうしても押
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