茶を捧げて持ってきた。それは年の頃十四五の綺麗な少女で指輪も腕釧《うでわ》も透きとおった影の映りそうな水晶であった。祝は少女の手から茶碗をもらって、うっとりとなって口のふちに持って往ったが、茶の匂いがひどく良いので一息に飲んで、
「どうか、もう一ぱい」
 と、言って二杯目の茶をもらったところで、媼さんが外へ出て往った。それを見て若い祝は少女の細そりした手を握ったが、少女が厭な顔もしないでその手の指輪の一つを脱《ぬ》いた。少女は頬を赧くしながらにっと笑った。祝の心は怪しくなってきた。
「あなたはどうした方です」
 と、聞くと少女は囁くように言った。
「晩にいらっしゃい、わたし此所にいるわ」
 祝は夜になってくることにして、同年の男の所へ往こうとしたが、非常に旨かった茶のことを思いだしてその葉をすこしもらって出かけ、そして、同年の男の家へ往ったところで気もちが悪くなった。祝は途中で飲んだ茶のためではないかと思って、同年の男にわけを話した。
「あぶない、そいつは水莽鬼だ、僕の親爺もそれで死んでるのだ、そいつはどうかしなくちゃならない」
 同年の男が顔の色を変えて驚いたので祝もふるえあがったが、念のために少女からもらってきた茶の葉を出して見せた。同年の男は一眼見て断言した。
「たしかに水莽草だ」
 祝はそこで指輪を出して少女の情状《さま》を話した。
「この指輪も貰ったのだが、鬼だろうか」
「待て、よ」
 と、同年の男はちょっと考えて、
「これは、きっと三娘だ」
 祝は媼《ばあ》さんが三娘と言って少女を呼んだことを思いだした。
「どうして、三娘ということが解ってるのだ」
「この南の村に、寇《こう》という富室《かねもち》があるのだ、三娘は其所の女だ、きりょうが良いので評判だったが、二三年前間違えて水莽草を食って死んだのだ、きっとこれが魅《わざ》をしているのだ」
 同年の男の傍にいる者が、鬼に祟られているものは、その鬼の家へ往って、鬼となった者が故《もと》つけていた襠《そでなし》をもらって、それを煎じて飲むと癒ると言った。同年の男は急いで南村の寇家《こうけ》へ往って、祝が水莽草を飲まされたわけを話して、三娘の襠をもらいたいと言ったが、寇の方ではそれによって女が生れ代ることができると思ったのでくれなかった。同年の男は怒って帰ってきて祝にそのことを話した。祝は歯ぎしりをして恨んだ。

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