端を廻つた所でございますが、舟で行けば十分ぐらゐもかゝりません、」
「舟がありますか、」
「えゝ、ボートを持つて来てをります、」
「あなたがお一人ですか、」
「えゝ、さうですよ、お転婆でせう、」
女は艶やかに笑つた。
「さうですね、」
省三はちよつと考へた。
「女中と爺やより他に、何も遠慮する者はをりませんから、」
「さうですね、すぐ帰れるなら参りませう、」
「すぐお送りします、」
「では、参りませう、」
「それでは、どうか此方へ、」
女が先になつてアンペラの俵を積んである傍を通つて土手へ出た。其所には古い船板のやうなものを斜に水の上に垂らしかけた桟橋があつてそれが水と一緒になつたところに小さな鼠色に見えるボートが浮いてゐた。
「あれでございますよ、滑稽でせう、」
「面白いですな、」
省三は桟を打つて滑らないやうにしたその船板の上を駒下駄で踏んでボートの方へおりて行つた。船板はゆら/\と水にしなつて動いた。ボートは赤いしごきのやうなもので繋いであつた。
「そのまゝずつとお乗りになつて、艫へ腰をお懸けくださいまし、」
省三はボートに深い経験はないがそれでも女に漕がして見てゐられ
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