から、大事に事《つか》えなくてはいけないよ。私はひどく忙しいから、これから帰って、三、四日したらまた来るよ。」
王は下男にいいつけて女を馬で帰そうとした。女は家はすぐ近いから、人手を煩わさなくても好いといって、とうとうそのまま帰っていった。小翠は悲しそうな顔もせずに、平気で匳《はこ》の中からいろいろの模様を取り出して弄《いじ》っていた。
王夫人は小翠を可愛がった。夫人は三、四日しても小翠の母親が来ないので、家はどこかといって訊いてみたが、小翠は知らなかった。それではどの方角からどうして来たかと訊いたが、それもいうことができなかった。
王夫妻はとうとう外の室をかまえて、元豊と小翠を夫婦にした。親戚の者は王の家で貧乏人の子供を拾って来て新婦にするということを聞いて皆で笑っていたが、小翠の美しい姿を見て驚き、もうだれも何もいわないようになった。
小翠は美しいうえにまたひどく慧《りこう》であった。能く翁《しゅうと》姑《しゅうとめ》の顔色を窺《み》て事《つか》えた。王夫妻もなみはずれて小翠を可愛がった。それでも二人は嫁が馬鹿な悴《せがれ》を嫌いはしないかと思って恐れた。小翠はむやみに笑う
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