を持って病人の見舞に来た。大成の母は歎息していった。
「賢いのね、嫁は。姉さんは、前世でどんな善いことをしたのでしょう。」
姨はいった。
「お前さんが出してしまった嫁はどうだった。」
大成の母はいった。
「あァ、あァ、それはね、夫己氏《だれか》のようにひどくはないが、でも、どうしてお宅の嫁にかないましょう。」
姨はいった。
「嫁がいた時には、お前は苦労を知らないでいられたし、お前が怒っても、嫁は怨まなかったし、嫁があるにこしたことはないじゃないか。」
大成の母はそこで泣いて、そして珊瑚を出したことを後悔しているといって、
「珊瑚はもう他へかたづいたでしょうか。」
と訊いた。姨はいった。
「知らないが、ね。詮議をしてみよう。待っておいで。」
二、三日して大成の母の病気は一層良くなった。姨は家へ帰ろうとした。大成の母は泣いていった。
「姉さんがいなくなったら、私は死ぬるのですよ。」
姨はそこで大成と相談して、二成を分家さすことにした。二成はそれを臧に知らした。臧は気を悪くして大成と姨に悪口をついた。大成は良い田地をすっかり二成にやりたいといった。臧はそこで機嫌がよくなったので、財産を分配するに用いる書類をこしらえた。
姨はそこで始めて持っていった。翌日になって姨は車を以て大成の母を迎えにやった。大成の母は姨の家へいって、先ず、
「嫁に逢わしてくださいよ。」
といって、ひどく甥嫁を褒めた。姨はいった。
「あの子はいくら善いといったところで、すこしも欠点がないということはないよ。それは、ただ私がゆるしているからだよ。お前さんに、もし嫁があって、家の嫁のようであっても、たぶん世話になれまいよ。」
大成の母はいった。
「あんまりですわ、私を無神経だとおっしゃるのは。私にも目も鼻もありますよ、物の善い悪いが解らないことはありませんよ。」
姨はいった。
「では、珊瑚のように出されたら、お前のことを何といってるだろうね。」
大成の母はいった。
「悪くいってるでしょうよ。」
姨はいった。
「ほんとうに自分の身を振りかえってみたら、悪くいうことはないから、なんで悪くいうものかね。」
「しかし、どんな人にも至らない所があります。珊瑚も賢人でないから、悪くいってると思うのですよ。」
姨はいった。
「怨むはずのものを怨まないのは、その人の心が解るし、いってしまってよ
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