た。安もそれには駭いたが、心ではひどく二成を憐《あわれ》に思って、その金をすっかりくれてやった。二成は喜んで、任の家へいって金を返してしまった。二成はひどく兄を徳とした。臧はいった。
「これで、ますます兄さんの詐《うそ》が知れるのですよ。もし、自分で心に愧《は》じることがなくて、だれが二つに分けたものをまた人にやるものですか。」
 二成はそれを聞かされると半信半疑になった。翌日になって任の家から下男をよこして、払った金はすっかり偽金《にせがね》であるから、つかまえて官にわたすといって来た。二成と臧は顔色を変えて驚いた。臧がいった。
「どうです。私ははじめから兄さんは利巧《りこう》で、ほんとに金なんかくれることはないといったじゃありませんか。どうです。これは兄さんがお前さんを殺そうとしていることじゃないの。」
 二成は懼れて任の家へいって哀みを乞うた。任は怒って釈《ゆる》さなかった。二成はそこでまた地券を任にやって、かってに售《う》ってもかまわないということにして、やっともとの金をもらって帰って来た。そして断ってある二つの錠《いたがね》をよく見ると、真物の金は僅かに菲《にら》の葉ぐらいかかっていて、中はすっかり銅であった。臧はそこで二成と相談して、断ったものだけ残しておいて、あとは皆兄の許へ返して容子を見さした。そして、二成に教えてこういわした。
「たびたびお金をいただいてすみません。で、二枚だけ残しておいて、お心ざしをいただきます。しかし私は残っている財産が、まだ兄さんと同じくらいあります。たくさんの田地はいりませんから、もうすててしまいました。買いもどすとも、そのままにするとも、それは兄さんしだいです。」
 大成は二成の心が解らなかったから、
「それは一たんお前にやったものだから、それはお前のものだよ、かえしてはいけない。」
 といって取らなかったが、二成がひどく決心したようにいうので、そこで受け取って秤《はかり》にかけてみると、五両あまりすくなくなっているので、珊瑚にいいつけて鏡台を質に入れて足りないだけの金をこしらえ、それを足して任の家へいって田地を取り戻そうとした。任はその金が二成が持って来た金に似ているので、剪刀《はさみ》で断ってしらべてみた。模様も色も完全に備ってすこしの謬《あやま》りもないものであった。そこで任は金を受け取って地券を大成に、かえした。二
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