酒があるなら戴いても好いんですが、なに好いんですよ、」
「御遠慮なさらなくても、家の者は、何人も戴きませんから、よろしければ、差しあげませう、すこしゝかありませんけど、」
「さうですか、すこし戴きませうか、御面倒ぢやありませんか、」
「そんなことはありませんよ、では、差しあげませう、」
女は起つて出て行つた、登は出て行く女の紫色の単衣の絡つた白い素足に眼をやりながら、昨夜の女の足の感じをそれと一緒にしてゐた。彼はうツとりとなつて考へ込んでゐた。
「こんな酒ですよ、召しあがれますかどうだか、」
登は夢から覚めたやうな気持で眼をやつた。女が小さなコツプに半分ぐらゐ入れた薄赤い液体を盆に乗せて持つて来てゐた。女は膝を流して坐つてゐた。
「や、これはすみません、」
「なんだか辛いお酒だつて云ふんですよ、」
「さうですか、戴きませう、」
登は茶の盆をすこし左の方に押しやつてから、コツプの乗つた盆を引き寄せ、それを持つてすこし舌の先に乗せてみた。それは麝香のやうな香のある強烈な酒であつた。
「なるほど、きつい酒ですな、しかし、旨いんです、」
登はかう云つて一口飲んだ。彼の眼には黒い女の眼が
前へ
次へ
全10ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング