その草路の方へと歩いて行つた。
鍔の広い麦藁帽は、雑木の葉先に当つて落ちさうになる所があつた。登はそれを落さないやうにと帽子の縁に右の手をかけてゐた。彼はその時先輩に対して金の無心を云ひだす機会を考へてゐた。彼は何人か二三人来客があつてゐてくれるなら好いがと思つた。それはもう途中で二度も三度も考へたことであつた。
……(今日は何しに来たんだ)
と云ふのを待つて、
(すみませんが……、)
と云ふやうに頭を掻いてみせると、
(また金か、この間、くれてやつたのが、もう無くなつたのか、幾等入るんだ、)
と、豪放な口の利方をするのを待つてゐて、
(すみませんが、五円ぐらゐ……、)
とやると、
(しやうの無い奴だ、)
と云つて、傍の手文庫の中から出してくれたが、何人も傍にゐない時には一銭も出さない。……
彼は今日あたりは幹事の島田あたりが屹と来てゐるだらう、内閣の割込み運動のやうな秘密な会合だとその席へは通れないが、普通の打ち合せで、それから晩餐でも一緒にやると云ふやうなことであつたら、通さないこともないだらう、さうなると金が貰へた上に、酒にもありつけると思つた彼は好い気持になつて
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