置いたコツプの中へ溜つてゐた。登は頭が赫となつて足にまかせて逃げ走つた。

 夢中になつて逃げてゐた登は、運好く山木邸の前へ行きかゝつたので、その晩は其処の書生部屋に一泊さして貰ひ、翌日、その怪異の跡をたしかめるつもりで、山木邸にゐる四五人の食客と一緒にその場所を捜して歩いた。
 その内にちよとした雑木林の中で自分の着てゐた麦藁帽子が見付かつたので、そのあたりの草の中を捜してゐると、畳一枚ぐらゐの所に草のよれよれになつた所があつて、其所に埴輪とも玩具の人形とも判らない七寸ぐらゐの古い古い土の人形があつて、その傍に一疋の小さな黒蛇が死んでゐた。



底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
初出:「黒雨集」大阪毎日新聞社
   1923(大正12)年10月25日
入力:川山隆
校正:門田裕志
2009年8月12日作成
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