翌晩狐はまた来た。
「これから東南に七里往くと、道ばたに落ちている金がある、早く往って拾ってくるがいいだろう」
車はその言葉に従って翌朝早く往った。果して二円の金が落ちていた。で、それを拾って佳い肴を買ってその晩の酒をたすけた。
狐はまた言った。
「この家の後ろに窖蔵《あなぐら》があるから、それを開けて見たまえ」
車は狐の言葉の通りに探してみた。果して窖蔵があって銭がたくさん入っていた。車は大いに喜んで言った。
「嚢中|已《すで》に自ら有り、漫《みだり》に沽《か》うを愁《うれ》うるなかれかね」
狐は言った。
「そうじゃないよ、車の轍《わだち》の痕にたまってる水は、そうたくさんはないからね、もすこしいいことを考えよう」
その次に逢った時、狐は車に言った。
「市場では錦葵《きんき》の値《あたい》がひどく安《やす》い、これこそめっけものだよ」
そこで車《しゃ》は錦葵を四十石あまり買った。人びとは皆それを笑ったが、間もなく大旱《だいかん》がして、穀物がそっくり枯れてしまい、ただ錦葵だけは植えることができた。そこで車は錦葵の種を売って十倍の利益を得、金もだんだんにできて、肥えた田を二百畝も作るようになった。それから多く麦を種《う》えると麦が多く穫《と》れ、多く黍《きび》を植えると黍が多く穫れた。一切の種植《たねうえ》の早い遅いは皆狐の判断に従った。車と狐は日に日に親密になった。狐《きつね》は車の細君を嫂と言い、小児《こども》は自分の子のようにして可愛がった。後、車が亡くなると、狐もとうとうこなくなった。
底本:「中国の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月8日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年発行
※「の値《あたい》がひどく安《やす》い、これこそめっけものだよ」
そこで車《しゃ》は錦葵」
の部分は、底本では欠落しており、底本の親本から補いました。その際「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、表記を新仮名づかいにあらためました。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年9月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング