け買って道士にあたえた。道士はそれをいただいた後で側の人たちに向って言った。
「出家には、ものおしみをする人の心がどうしても解りません、わしに佳《よ》い梨がある、それを出して、皆さんに御馳走をしよう」
 すると一人が言った。
「持ってるなら、それを食えばいいじゃないか」
 そこで道士が言った。
「わしが食わないのは、佳い梨だから、この核《たね》をとって種にしたいと思ってたからだよ」
 道士はそこで一つの梨をとって啗《く》ってしまって、その核を手に把《にぎ》り、肩にかけていた鋤《すき》をおろして、地べたを二三寸の深さに掘り、それを蒔《ま》いて土をきせ、市の人たちに向って、
「これに灌《か》ける湯がほしい」
 と言った。好事者《ものずき》が路ばたの店へ往って、沸きたった湯をもらってきて与えた。道士はそれを受けとって種を蒔いた所にかけた。皆がふしぎに思って見つめていると、そこから曲った芽が出てきて、しだいに大きくなり、やがて樹になり、枝葉が茂り、みるみる花が咲き、実になったが、その実は大きく芳がよく、それが累々として枝もたわわになったのであった。
 道士はそこでその梨を摘《つま》みとりながら
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