種梨
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)市《まち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)皆|己《おのれ》の
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村に一人の男があって梨を市《まち》に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳《におい》もいいので貴《たか》い値で売れた。破れた頭巾をかむり、破れた綿入をきた一人の道士が有《あ》って、その梨を積んでいる車の前へ来て、
「一つおくれ」
と言った。村の男は、
「だめだよ」
と言って叱ったが道士は動かなかった。村の男は怒って、
「この乞食坊主、とっとと往かないと、ひどい目に逢わすぞ」
と言って罵った。
すると道士は言った。
「この車には何百も積んであるじゃないか、わしがくれというのは、ただその中の一つだよ、一つ位くれたところで、あんたにそうたいした損はないじゃないか、なぜそんなに怒りなさる」
側《そば》に立って見ていた人たちも道士に同情して、村の男に、
「一つわるいのをあげたらどうだ」
と言ったが、村の男は頑として肯《き》かなかった。肆《みせ》の中にいた奉公人がやかましくてたまらないので、とうとう銭を出して一つだ
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