を偸《ぬす》んだ盗賊と定《き》まった、後の四十九錠の金はどこへ隠した、包まずに白状するが宜かろう」
 捕卒がふみこんで来た時から、もう気が顛倒《てんとう》して物の判別を失くしていた許宣は、邵大尉庫中の盗賊と云われて、はじめて己《じぶん》に重大な嫌疑がかかっていることを悟った。
「私は、決して、人の物を盗むような者ではありません、それは人違いです」
 許宣は一生懸命になって弁解《いいわけ》をした。
「いつわるな、その方が邵大尉の庫の中の金を偸んだと云うことは、その方が姐に預けた、五十両の金が証拠だ、あの金はどこにあったのじゃ」
「あの金は、荐橋双茶坊|巷《こう》の秀王墻《しゅうおうしょう》対面に住んでおります、白《はく》と云う女からもらいました」
 許宣はそこで白娘子と近づきになったことから、結婚の約束をするようになったいきさつを精《くわ》しく話した。その許宣の詞《ことば》には詐《いつわ》りがないようであるから、韓大尹は捕卒をやって白娘子を捉えさした。
 捕卒は縄つきのままで許宣を道案内にして双茶坊へ往って、秀王墻の前になった、高い墻《まがき》に囲まれた黒い楼房《ろうぼう》の前へ往った。
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