其処へ衝き坐ってわなわなと顫えた。
 篠原家はみるみる猛火に包まれて、空を染めて炎々と燃えあがったが、やがてその火は半ばから上が円々とした一団の火の玉となって、樽の滝の方へ飛んで往った。

 篠原の主人はじめ一家の者は怪しい火のために一人も残らず焼死した。怪しいことはそればかりではなかった。篠原一門の者が樽の滝の傍へ往くと急に四辺《あたり》に霧がかかって方角が判らなくなり皆その中へ落ちて死んだ。口碑には伝わっていないが、皮剥の手伝いをした親類の男も無論変死に終ったと思われる。今でも同地方では、篠原家の者は大樽の傍へ往かれないと云って話す者がある。



底本:「日本の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1986(昭和61)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年初版発行
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング