って、兵士のいる方から来ている小路へ出た。五六人の男が奥の方から出て来た。もう脂肪臭いいやな匂いがしてきた。左側の柱の燃え残りの傍に黒く焦げた一つの死体があった。それは肱から先と膝から先のない猿とも人とも判らなくなったものであった。黒焦げ死体はその二三間先にもあった。私は気味は悪かったが、それに対して別にいたましいというような感情は起らなかった。
焼け残りの建物がその先にあって、三人ばかり詰襟の服を着た者がいた。その傍にひとところ畳一枚敷ぐらいの所に火を燃やしていた。それは上にトタンを着せ、下に薪木になる柱の折れのような物を置いて何か焼いているらしかった。建物は路の角に入口を向けていた。その入口の庇《ひさし》の所に相生警察署巡査合宿所とした文字があった。その先は広っ場になって向うの方にたくさんの人が動いていた。こちらの合宿所の隣の広っ場の縁になった所には、一筋の縄を張って一人の兵士が張番していた。私は気がついて縄を張ってあるあたりの地面に眼をやった。黒焦げになった死体があっちこっちに散らかっていた。私はいよいよこれが被服廠跡だと思って広っ場の中の方へと眼をやった。そうして私は眼先がく
前へ
次へ
全21ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング