れを見て大声をあげようとすると、船頭が※[#「竹かんむり/高」、第3水準1−89−70]《さお》でついた。金の父親もそのまま水の中へ落ちてしまった。金の母親がその声を聞いて出て窺《のぞ》いた。船頭がまた※[#「竹かんむり/高」、第3水準1−89−70]でつきおとした。王はその時始めて、
「大変だ、大変だ、皆来てくれ。」
といった。金の母親の出ていく時、庚娘は後にいて、そっとそれを窺《のぞ》いていたが、一家の者が尽く溺れてしまったことを知ると、もう驚かなかった。ただ泣いて、
「お父さんもお母さんも没くなって、私はどうしたらいいだろう。」
といった。そこへ王が入って来て、
「奥さん、何も御心配なされることはありませんよ。私と一緒に金陵《きんりょう》にお出でなさい。金陵には田地も家もあって、りっぱにくらしておりますから。」
といった。庚娘は泣くことをやめていった。
「そうしていただくなら、私は他に心配することはありません。」
王はひどく悦んで庚娘を大事にした。夜になってしまってから王は女を曳《ひ》いて懽《かん》を求めた。女は体※[#「女+半」、265−15]《たいはん》に託してはぐらかした。王はそこで細君の所へいって寝た。
初更がすぎたところで、王夫婦がやかましくいい争いをはじめたが、その由《わけ》は解らなかった。それをじっと聞いていると、細君の声がいった。
「あなたのしたことは、雷に頭をくだかれることですよ。」
と、王が細君をなぐりつける音がした。細君は叫んだ。
「殺せ、殺せ。死ぬるがいい、死にたい。人殺の女房になっているのはいやだ。」
王の吼《ほ》えるように怒る声がして、細君をひッつかんで出ていくようであったが、続いてどぶんと物の水に落ちる音が聞えて来た。
「だれか来てくれ、女房が水に落ちたのだ。」
王のやかましくいう声がした。
間もなく金陵にいった。王は庚娘を伴《つ》れて自分の家へ帰って、堂《おく》へ入って母親に逢った。母親は王の細君が故《もと》の女でないのを不審がった。王はいった。
「あれは水に堕《お》ちて死んじゃったから、これをもらったのです。」
寝室へ帰って王は庚娘に迫った。庚娘は笑っていった。
「男子が三十になって、まだ人の道が解らないのですか。市《まち》の小商人の子供でさえ、初めて結婚する時には、いっぱいの酒を用いるじゃありませんか。そ
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