んだ上に不思議な形をした建物が聳えてゐた。建物の上には三ツの星があつた。それは石燈籠の上に祠をのつけたやうに見える塔であつた。彼は不思議な物を見付けたと云ふやうな眼付をしてそれを見詰めた。それは裁判官あがりの地主が建築したもので、二三年この方見慣れてゐる物であつた。
(――谷の怪塔、)
青いぎらぎらした光がその塔の中から出て、それが蛇の畝るやうに光つた。塔の四方には一つづつの小さな窓があつて時とするとその窓から灯の見えることは義直の記憶にあつた。彼は今晩はその窓へ探照燈のやうな仕掛けでもして遊んでゐるのではないかと思つたが、もう何も見えなくなつて、塔の輪廓がまた薄くぼんやりと見えて来た。
(眼の具合であつたかな、今晩は別に灯も見えてゐるやうでない、)
義直は時間のことを思ひだした。
(もう十時だらうか、)
彼は女と別れて帰つて来た時のことを考へた。女は二人で飲んだ氷のコツプを盆へ載せておろして行つたが、あがつて来ると笑顔になつて了つた。
(もう十分過ぎてますよ。ついでに十一時まで好いでせう、十一時までいらつしやい、)
朝の内に行けなかつたので、二時頃から郊外の寺へと出かけて行つ
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