でもやめずに女に頼んだ。
「どうか、なんとかしてくれないか。甥女が可哀そうでしかたがない。」
 女は承知した。
「では、なんとか致しましょう。」
 その翌晩になって女はいった。
「あなたのために、婢を南へやりました。婢は弱いから、殺すことができないという恐れはありますが。」
 その翌晩、女が来て寝ていると、婢が来て戸を叩いた。女が起きて扉を開けて内へ入れて、
「どうだね。」
 と訊いた。婢は、
「つかまえることができないものですから、片輪にしてやりました。」
 といった。女は笑ってその状を訊いた。婢はいった。
「はじめは旦那様のお家だと思っていましたが、いってみてそうでない事が解りました。で、婿さんの家へいってみますと、もう燈《あかり》が点《つ》いておりました。入ってみますと奥様が燈の下に坐って、几《つくえ》によりかかっておやすみになろうとするふうでした。私はそこで奥様の魂をとって、※[#「倍のつくり+瓦」、第3水準1−88−38]《かめ》の中へ入れてしまって、待っておりますと、しばらくして彼奴《あいつ》が来て室《へや》の中へ入りましたが、急に後にどいて、どうして知らない人を置いてあるのだといいました。それでもよく見ると何もいないものですから、また入って来ました。私はうわべに迷わされたようなふりをしておりますと、彼奴は衾《ふとん》をあけて入りかけましたが、また驚いて、どうして刃物があるのだといいました。私はもともと穢い物で指を汚すのはいやでしたが、ぐずぐずしていて間違いができると困りますから、とうとう捉えて片輪にしてしまいますと、彼奴は驚いて吼《ほ》えながら逃げてしまいました。そこで起きて※[#「倍のつくり+瓦」、第3水準1−88−38]を開けると奥様もお醒めになったようですから、私も帰ってまいりました。」
 金は喜んで女に礼をいった。そこで女と婢とは一緒に帰っていった。
 その後半月あまりしても女は来なかった。金はもう女は来ないものだと諦《あきら》めてしまった。その時は歳の暮であった。金は塾を閉じて帰ろうとした。と、女が不思議にやって来た。金は喜んで女を迎えていった。
「君に見すてられたので、きっと何か怒られたと思っていたのだが、しあわせとすてられっきりでもなかったね。」
 女はいった。
「一年もああしていたのに、別れに一言もなくては物足りないじゃありませんか。あ
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