も有難うございます、いただきましょう」
婆さんはその餅を口に持って往った。季和は自個の持ってきた餅を喫いながら婆さんに注意していた。と、婆さんがひっくり覆った。婆さんの姿はもう驢馬に変っていた。それといっしょに他の四人の旅人も皆驢馬になってしまった。季和は走って往って婆さんの驢馬に飛び乗った。そうして愉快そうに言った。
「どうだ、俺には敵《かな》わないだろう」
四年の後、季和は婆さんの驢馬に乗って旅行をしていた。華山廟《かざんびょう》の東から五六里来たところで、むこうから来た老人に往き違った。老人は手を拍って笑いだした。
「板橋《はんきょう》の三|娘子《じょうし》が驢馬になってるぞ」
老人は驢馬の口を捕えた。
「三娘子も罪があるが、貴郎には大分恥をかかされた、もう許してやったらどうだな」
季和がおりると老人は驢馬の鼻と口の間へ手をかけて物を引き裂くようにした。驢馬がなくなって三娘子が姿を現わした。三娘子は老人の方に向って礼拝《おじぎ》したが、それがすむと飛ぶように走ってすぐ見えなくなった。
底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
1970(昭和45)年11月30日発行
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年9月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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