乞児は猿曳の飼うていた猴も奪ってそれに技をやらそうとしたが、猴はその意に従わない。乞児は怒って鞭で打ったので、猴も渋しぶ技をやっていたが、隙を見て何処へか往ってしまった。
その時|張廷栄《ちょうていえい》という、県尹《けんいん》[#「県尹」は底本では「懸尹」]が新たに任について、庁《ちょう》に升《のぼ》ったところで、一疋の猴が丹※[#「土へん+犀」、61−11]《たんち》の下へ来て、跪《ひざまず》いて号《さけ》んだ。張廷栄は不思議に思って、隷官《れいかん》に命じて猴の後をつけさした。猴は養済院のほうへ往って、その門前に集まっている乞児の間を往来して何者か探す容《ふう》であったが、やがて其処を離れて往くので、隷官もまたその後からついて往った。往く途で、猴は人家へ入って餅を貰ってきて、それを隷官に喫《く》わし、また往って大市橋のある処へ出たが、その橋の袂にいる乞児を見つけると、隷官を曳きとどめるようにして、突然その乞児の肩に跳《おど》りあがり、頬を打ち面《おもて》を抓《つま》みだした。隷官はその乞児に意味があるだろうと思って、すかさず執《とら》えて庁に帰った。張廷栄は再三これを鞫問《きく
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