。
「いい陽気じゃないか、一つ伊勢詣《いせまいり》にでも往こうじゃないか」
「往きたいには往きたいが、近いうちに、うちの和尚さんの身に、変ったことがありそうだから」
「そうかね、おまえさんは、和尚さんに助けられた恩義があるからね」
寺男ははっとして眼を開けたが、縁側には彼《か》の飼猫と近くの寺の猫がいるだけで他には何もいなかった。其のうちに夜になって寝たところで、天井裏で喧嘩でもするような大きな物音がした。寺男はびっくりして眼を覚ましてみると、住職がもう起きて行燈《あんどん》に燈《ひ》を点けていた。
「何でしょう」
「さあ」
二人は行燈の燈で彼方此方《あっちこっち》を見まわったが、別に怪しいこともないので、其の夜は其のままにして寝たが、朝になって住職が本堂へ往ったところで、其処《そこ》の天井裏から生なましい血が滴っていた。住職は驚いて檀家《だんか》の壮《わか》い者に来てもらっていっしょに天井裏へあがった。天井裏には彼《か》の飼猫と近くの寺の猫が血に染って死んでいたが、その傍に三尺近い大鼠が死んでいたが、それは僧侶の被《き》る法衣《ころも》を被ていた。
「おう」
其の時住職の頭を掠
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング