従って良《え》え事をする者は神様からお褒めにあずかる。此の港は、此の土佐の荒海を往来《ゆきき》する船のために、普請をしておるからには、神様がお叱りになるはずはない。此《こ》の比《ごろ》暫く大暴風《おおじけ》もせず、大波もないが、これは神様のお喜びになっておる証拠じゃ。それに此の普請は、此の釜礁を砕いてしまえば、すぐにりっぱな港になる。一日でも早くりっぱな港を作ることは、神様はお喜びにこそなれ、お叱りになることはないと思うが、其の方はどう思う」
「へい」
 と云ったが、松蔵はそれに応える事ができなかった。総之丞が松蔵のために応えなくてはならぬ。
「それは一木殿のお詞《ことば》のとおりでございます。神様は人の為こそ思え、人を苦しめるものではございませんから、人のために作っておる港の、邪魔をするはずはありません」
 権兵衛は頷いた。
「そうとも、其のとおりじゃ」松蔵を見て、「松蔵、判るか」
 松蔵にもおぼろげながら其の意は判った。
「判ります」
「それでは、礁を破るに憚る事はないぞ」
「そりゃ、そうでございます」
「それが判ったなら、皆に其の事を云え」
「云いましょう、云います」
「云え、云
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