穂が見え緑の桑の葉が見え別荘の土手が見え土手の上の薔薇の花が見えた。重くどろんだ波の音もした。源吉はぢつと立つて不思議な物の影に見入つてゐたがやつと気が付いたやうに後の方へと引返した。その源吉の姿が左側の入口に燈火の見える家の角に消えて行くまで、まはりに立つてゐた人々は不安な眼付をして見送つてゐた。

 源吉はその夜の中に、氏神の森の木に、死骸となつてさがつてゐた。



底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
初出:「黒雨集」大阪毎日新聞社
   1923(大正12)年10月25日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:門田裕志
2009年8月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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