くしてゐた。
「おい、一人の女はどうしたんだ、」
 と老人が云ふので、お幸ちやんは例によつて、
「芝の親類へお嫁に行つたんですよ、」
 と云つた。老人はそれを聞くと、テーブルへ片肱をついてそれで頬を支へながら、こくりこくりとやりだしたが、急に眼を開けて云つた。
「あの女が芝なんかにゐるもんかい、あれや雨で大河からあがつて来た奴に連れて行かれたんだよ、彼奴を何んと思ふんだ、頭から顔からつるつるとしてゐたんだらう、」
 老人はかう云つてから、またこくりこくりとやりだした。



底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
初出:「黒雨集」大阪毎日新聞社
   1923(大正12)年10月25日
入力:川山隆
校正:門田裕志
2009年8月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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