けて逃げてきたが、後十四年して細君を迎えたところで、その細君は何時《いつ》も花鈿《はなかんざし》を額へ垂らしていた。理《わけ》を聞いてみると、三つの時に兇漢《きょうかん》に刺されて傷があるからだといった。
要するに六朝小説は支那《しな》文学の源泉で、それが小説になり、戯曲になり、詩になり、その流れは『捜神記《そうしんき》』『剪燈新話』『西湖佳話』『聊斎志異《りょうさいしい》』というような怪譚小説になった。秋成の蛇性の婬は『西湖佳話』の飜案であるという事は今もいったが、円朝の怪談で有名な彼《か》の『牡丹燈籠《ぼたんどうろう》』は『剪燈新話』の中の『牡丹燈記』から出たもので、この牡丹燈記の話は、他にもいろいろな話になっている。小泉八雲《こいずみやくも》の怪談の中にある耳なし法師の話も、やはり『牡丹燈記』の変形である。
小泉八雲の怪譚といえば、私の好きなものは狢《むじな》の怪談である。商人が紀《き》の国坂《くにざか》を通っていると娘が泣いている。傍へ往って慰めてやろうとすると娘が顔をあげたが、それは目も鼻もないのっぺら坊であった。商人は顫《ふる》えあがって逃げていると夜鷹蕎麦《よたかそば
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