したという話で、高野聖では幻術で旅人を馬にしたり猿にしたりする美しい女になっており、大体の構想に痕跡の拭《ぬぐ》うことのできないものはあるが、その他は間然《かんぜん》する処《ところ》のない独立した創作であり、また有数な傑作でもあって、上田秋成《うえだあきなり》が『西湖佳話《せいこかわ》』の中の『雷峯怪蹟《らいほうかいせき》』をそっくり飜案して蛇性の婬《いん》にしたのとは甚《はなは》だしい相違である。
 またその叢書の中の『幽怪録《ゆうかいろく》』には、岩見重太郎《いわみじゅうたろう》の緋狒退治《ひひたいじ》というような人身御供《ひとみごくう》の原話になっているものがある。それは唐《とう》の郭元振《かくげんしん》が、夜、旅をしていると、燈火の華やかな家があるので、泊めてもらおうと思って往くと、十七八の娘が一人泣きくずれている。聞いてみると、将軍と呼ばれている魔神の犠牲《いけにえ》にせられようとしていた。そこで郭は、娘を慰めて待っていると、果して轎《かご》に乗って数多《あまた》の供を伴《つ》れた男が来た。郭は珍しい肴《さかな》を献上するといって、鹿の※[#「月+昔」、第3水準1−90−47
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