》がいた。ほっとして傍へ往くと、蕎麦屋の爺仁《おやじ》が理《わけ》を聞くので、のっぺら坊の妖怪に逢った事を話すと、爺仁は顔をつるりと撫《な》でて、こんな顔であったかといった。それも目も鼻もないのっぺら坊であった。
こののっぺら坊の話は、本所《ほんじょ》の七不思議の置いてけ堀と一つのものである。私の郷里にも同系統の話がある。場所は一方に山があり一方に畑や松原があって人家も何もないところで、そして、東から来ると山の取付に三味線松という天狗《てんぐ》が来て三味線を弾くという伝説の松があって、私なども少年の時はひどく怖《こわ》かった。
某日《あるひ》の夕方、村の女の一人がその三味線松の下を通っていると、すぐ前に女が歩いている。村の女は伴《つ》れが見つかったので喜んで傍へ往き、土地の詞《ことば》で、
「どうぞ、一所《いっしょ》に往《い》てつかわされませ、みょうな物がおるといいますきに」
というと、前の女は、
「ありゃ、わたしかよ」
といって振りかえったが、それは目も鼻もないのっぺら坊であった。
底本:「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日第1刷発行
底本の親本:「新怪談集 物語篇」改造社
1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年8月20日作成
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